日本人の睡眠時間は欧米諸国と比べると短く、特に女性ではその傾向が顕著に表れているというデータがあります。また、厚生労働省のデータによると、現在、日本人の5人に1人は、睡眠時に何らかの障害を抱えているとされています。
時間が不足しているばかりか、質にも問題があると考えられる睡眠。しかも睡眠不足は、生活習慣病の原因になるともいわれています。
では人はいったい毎日何時間眠れば良いのか?睡眠をきちんととることができたかどうかは日中しっかり覚醒して過ごせるかが目安となります。理想的な睡眠を得るにはどうしたらいいのか、探っていくことにしましょう。
睡眠は「質」が一番のポイント
総務省の調査によると、日本人の全年齢の平均睡眠時間は女性が7時間36分、男性が7時間49分。しかし働き盛りにさしかかった35~39歳では、女性が7時間22分、男性が7時間24分と短くなってきます。なかでも最も睡眠時間が短いのが男女とも45~49歳。この年齢層では女性が6時間48分、男性が7時間18分と、かなり睡眠時間が短いことがわかります。
また、OECD (経済協力開発機構) の調べでは、下の表のように日本人の睡眠時間の短さが際立っています。おまけに、女性の睡眠時間が男性より短い国は、日本以外では韓国とメキシコくらいしか見当たりません。
平成23年 総務省「社会生活基本調査」
就業者の睡眠時間 (OECD 2011年調査)
女性 | 男性 | |
---|---|---|
日本 | 7時間36分 | 7時間41分 |
韓国 | 7時間42分 | 7時間52分 |
アメリカ | 8時間42分 | 8時間29分 |
カナダ | 8時間27分 | 8時間13分 |
メキシコ | 8時間08分 | 8時間16分 |
フランス | 8時間33分 | 8時間26分 |
イタリア | 8時間46分 | 8時間40分 |
スペイン | 8時間34分 | 8時間30分 |
フィンランド | 8時間34分 | 8時間27分 |
ニュージーランド | 8時間49分 | 8時間42分 |
睡眠の質とは?
睡眠は、深い眠りの「ノンレム睡眠」と浅い眠りの「レム睡眠」を繰り返しています。
レム睡眠中には基本的に筋肉は動かないようになっていますが、脳は活動をしており夢を見ています。そして一晩にノンレム睡眠とレム睡眠を4~5回繰り返します。ノンレム睡眠にはレベルがあり、最も深い眠りを得られるのが最初の1~2回。つまり寝入ってから約3時間の間に深い眠り=ノンレム睡眠に達すれば、脳もカラダも休ませることができるため、朝起きた時に「ぐっすり寝た」という満足感を得ることができるのです。
また、寝入ってから2~3時間後に分泌されるのが成長ホルモンです。「これ以上身長が伸びるわけではないから、成長ホルモンが分泌されなくても関係ない」と思っていたら、大間違い。成長ホルモンは単に「成長」を促進させるだけでなく、「細胞の修復」や「疲労回復」に役立っています。肌=皮膚や内臓の細胞を新しいものに入れ替える「ターンオーバー」は、成長ホルモンによって行われるのです。そのため、成長ホルモンを「若返りホルモン」と呼ぶ専門家もいるほどです。
明け方になると、成長ホルモンに代わってコルチゾールというホルモンの分泌が高まります。コルチゾールは、体内に蓄えられた脂肪をエネルギーに変えるホルモンで、体が目覚める準備を始めるのです。睡眠の質がよくないと、成長ホルモンが十分に分泌されないうちにコルチゾールの分泌が高くなってしまいます。
「睡眠が不足しているなぁ」と感じた翌朝に、肌のコンディションがよくないと感じたことはありませんか。それは、成長ホルモンが十分に体にいきわたっていないからかもしれません。
質のいい睡眠のために必要なこと
体内時計を有効活用する
人間には体内時計があり、それが1日の24時間とずれているため睡眠にも影響が出るといわれています。体内時計は24.5時間とも24.2時間ともいわれてきましたが、最新の研究では24時間11分と発表されています。
たかが11分と思うかもしれませんが、放っておくと1週間で1時間以上、1カ月にすると4時間以上もずれてしまうことになります。これをリセットして24時間と合わせることで、生活のリズムが生まれます。そして夜になったらメラトニンという睡眠をうながすホルモンが分泌されるため、質のいい睡眠も可能になります。
体内時計をリセットするのに有効なのは、まず朝起きたときに太陽の光を浴びること。これによって、体内時計の「親時計」を目覚めさせることができます。しかし体の奥深くにある「子時計」には光が届きません。そこで子時計も目覚めさせるために、食事を摂る必要があります。太陽を浴びてから、あまり時間をおかずに朝食を摂る方がいいと考えられます。
運動、食事、睡眠は計画的に
1日のリズムを取り戻したら、睡眠や入浴、食事を計画的に行うことを考えましょう。
食事は床に就く3時間以上前にすませ、胃腸を休めてから寝るのが理想的です。また、質のよい睡眠のためには、体を温める食事を選びましょう。人は高い体温が下がるときによく眠れます。例えば唐辛子に含まれているカプサイシンには、体温を上げた後に下げる作用がありますから、そういった食材を選ぶといいでしょう。
運動は夕食後1時間以上たっていて、床に就く2時間以上前までに行うといいでしょう。適度な疲労感は、睡眠のよきパートナーです。しかし寝る直前に運動すると体温が高くなりすぎ、寝付くことが難しくなりますから注意しましょう。
入浴はシャワーですませるのではなく、40度くらいのぬるめのお湯にゆっくりつかるのが効果的です。リラックス効果が得られるだけでなく、高くなった体温を放熱しようと血管が開くことで、副交感神経が優位になります。そして血流のよくなった四肢から熱が逃げていき、体温が下がることで寝付きやすくなるのです。風呂上がりに手首や足首を伸ばすといった軽いストレッチを行うことも、質のいい睡眠の後押しとなります。
年齢毎に適切な睡眠とは?
実際に睡眠時間を調べた数々のデータによると、夜間の睡眠時間は10歳までは8~9時間、15歳で約8時間、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳で約6時間と、加齢とともに必要な睡眠時間が少なくなるということが報告されています。
よく加齢によって昔ほど長時間眠れなくなったという悩みを聞きますが、実は加齢に伴い必要とする睡眠時間が少なくなっているというのが事実のようです。成人の場合、個人差はあるものの6~7時間前後の睡眠時間が目安です。
また、高齢者では若い頃にくらべて早寝早起きになるようです。これは体内時計の加齢変化によるもので、睡眠だけではなく、血圧・体温・ホルモン分泌など睡眠を支える多くの生体機能リズムが前倒しになります。
さらに、加齢とともに睡眠も浅くなるようです。睡眠脳波を調べてみると、深いノンレム睡眠が減って浅いノンレム睡眠が増えるようになります。そのため尿意やちょっとした物音などでも何度も目が覚めてしまうようになります。よく若いころの睡眠に比べてよく眠れなくなったということを経験するかもしれませんが、実は加齢に伴い体に必要な睡眠が変化してきているのです。
季節によっても睡眠時間は変化?
個人の睡眠時間は季節によっても変化することが分かっています。秋から冬にかけて日が短くなるときに睡眠時間は長くなり、春から夏にかけて短くなることからも日照時間と深く関わっていることがうかがえます。最も日の短い12月から1月に睡眠は長くなりやすく、6月から7月の初夏に最も短くなることが分かっています。
朝型、夜型は生まれつき
朝が得意か苦手かは体内時計の機能に関係した遺伝子の多様性、つまり生まれつきの体質であるということが明らかになってきました。朝が苦手かどうかについては、その人のやる気や性格と関連して受け止められがちですが、性格との関連性は明らかにされていません。一般的に若い人は朝が苦手ですが、それが年をとると少しずつ解消されてきます。これは加齢による睡眠調節の老化が原因であるということもわかってきました。
このように同じ人でも睡眠時間は季節や年齢によって変動するので、あまり睡眠時間の長短にはこだわらなくても良さそうです。また、睡眠時間は個人差もあり、5時間未満の短時間の睡眠で大丈夫な人から、成人でも10時間以上の睡眠を必要とする人までさまざまです。
睡眠は身体が必要としている時間以上の睡眠をとることは不可能と言われており、睡眠時間にこだわり過ぎるとかえって睡眠が浅くなったり、不眠に陥ることが多いようです。
質のいい睡眠をサポートするアイテム
1 寝具
睡眠の質を高めるためには、寝具なども重要なポイントです。
例えば自分の体格に合った枕を選ぶことで、安眠を得られることも多いのです。頭頂部が高すぎると首が落ち込んでしまうため、肩こりやいびきを引き起こすことがあります。顎が上がってしまう状態だと、いびきや口呼吸の原因になることもあります。寝具メーカーが実際に計測して、個人個人に合った高さの枕を提供してくれるお店も増えていますから、試してみるのも一つの手です。
マットレスを替える方法もあります。スポーツ選手がよく利用しているという網状のマットレスは、代謝の高い人や暑がりの人にピッタリです。また、寝返りが打ちやすいため、快眠に結びつくのです。ただし、通気性が良すぎるため、冷え症の人は注意が必要です。
パジャマ選びにも気を遣いたいものです。一番パジャマにピッタリなのが、汗をしっかり吸い取ってくれる薄手のコットン製です。寒い時期には少し毛羽立ったものに替えるのがいいでしょう。しかし、厚着をして寝ると寝返りが打ちづらくなるため、快眠できないことがあります。また、靴下を重ね履きすると血流が滞ってしまうため、かえって温まりません。冷え症の人も、重ね履きを避ける方が無難です。
2 飲食
カモミールなどのハーブティーや、漢方薬を利用するのもいいでしょう。また、休息のためにアミノ酸の「グリシン」を活用する人も増えてきています。いずれにせよ、自分にマッチするアイテムを見つけることが、快眠に結びつくのです。
睡眠のNGアイテム
睡眠のリズムを突然断ち切ってしまう大音量の目覚まし時計は、心地いい目覚めのためには逆効果です。今では優れモノの睡眠計が発売されていますから、活用してみてはいかがでしょう。
注目の機能は、「設定した時刻から60分前までの任意の時間の間で、目覚めやすいタイミングでアラームを鳴らしてくれる」点です。この機能に関しては、睡眠を研究する専門家からも「理にかなっている」「スッキリ目覚めがいい」と評価されています。
また、睡眠時間や寝付きにかかった時間、夜中の寝返りも計測してくれるので、自分の睡眠の状態を把握することができます。
まとめ
睡眠でまず大事になるのは睡眠時間をきちんと確保することです。日中眠くなることが多かったり、仕事や学校のない休日に朝遅くまで寝てしまっている場合は、日ごろ睡眠時間が足りないというサインになります。
知らず知らずのうちに睡眠負債がたまっているのです。睡眠時間を確保することは私たちの健康にとってとても重要なことです。睡眠不足だと風邪をひきやすくなったり、高血圧や糖尿病の要因にもなりうることが報告されています。
また、記憶力や感情、パフォーマンスにも大きな影響をもたらすことも報告されており、睡眠不足による経済損失は膨大なものになるといわれています。必要な睡眠時間を確保することはとても大事なことなのです。
睡眠には「脳や身体の休養」「疲労回復」「免疫機能の増加」「記憶の固定」「感情整理」など多くの重要な役割があります。うまく睡眠不足を解消しながら、体内リズムをコントロールして、生き生きとした快適な毎日を過ごしましょう^^
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